大学受験と親、受験生とのかかわり方について
この記事は、大学受験生を子に持つ親御さん向けの内容です。
大学受験というものは受験生にとっての一大イベントですが、親・家族にとっても同じくらい大きなイベント。
子同様に親も不安になり、悩みます。
塾講師を4年続けて一番感じたことが、
多くの受験生の親御さんが、子供とのかかわり方について悩んでいる
ということです。
当の受験生よりも受験に対してナーバスになる保護者の方も多くいます。
三者面談や保護者面談では、「何をしてあげるのが良くて、何をするのが良くないのか分からない」という悩みについて相談されることが多いです。
この記事では、自身の大学受験・浪人経験と塾講師経験をもとに、大学受験に臨む子供と親のかかわり方について考えていきたいと思います。
はじめに
親は飯とカネだけ出せばいい
というのは、受験業界ではたまに耳にする言葉です。
この言葉は極論に近いですが、大学受験においては的を射ている側面もあります。
この言葉は2つの考え方で、大学受験を言い表しているのではないでしょうか。
まず、大学受験は子供の独り立ちの機会である、という解釈です。
大学受験はそれまでの受験(小中高の受験)とは異なり、受験生が自らの進路について考え、自らの意思で志望校を決定することが多いです。
それまでの受験では、親の意見・方針が大きく影響しています。
子供は「自分のやりたい事」が分からないため、偏差値や何らかの実績で志望校を考え、親は学費や自宅からの距離などより現実的な要因で選択肢を限定してしまいます。
また、「こう育ってほしい」という想いから、親が志望校を決めるケースも少なくありません。
つまり、高校受験までは、受験の主役が親である場合が多いです。
一方、大学受験の主体は受験生です。
受験生は「大学でやりたい事」をもとに志望校を決定します。
諸事情で自分の意思よりも、家庭の方針を優先する人も少なくないとは感じますが、しかし一般的に、そのようなしがらみがない場合、自分が大学で何を学びたいか、どんな大学生活を送りたいか、将来どんな大人になりたいか…など、自分の将来から逆算して大学・学部を決める人が多いでしょう。
親が「あそこは受験しなさい、ここは合格しても行かせません」と意見するケースは少数だと思います。
これは塾講師としても感じる部分です。
志望校を決める際、受験生は自分の意見をはっきり言い、親は子の意思を尊重する、という関係が顕著に見て取れます。
少なくとも小中高の受験よりははっきりと。
私は「自分の人生を自分の意思で歩み始めるスタートラインが大学受験」だと考えます。
勿論、衣食住など様々な面で以前として親の庇護の下にあることには変わりませんが、親の役割はそれまでの受験よりもずっと小さくなります。
つまり『親は飯とカネだけ出せばいい』という言葉は、「子供の人生なのだから親は必要最低限のサポートだけしなさい」と言う考えを、少しキツめに表現したと捉えることが出来るのではないでしょうか。
また、大学受験に求められる知識は高度なものになります。私も専門外の事は教えることが出来ません。受験生の方が詳しいくらいです。
この言葉の2つ目の解釈として、「勉強面で親が出来るサポートはないので、親は勉強に集中できる環境作りをしなさい」と考えることが出来そうです。
小学受験や中学受験の成功は親の頑張りが大切、と言いますが、大学受験は親が適切な距離感で接することが大切、と言えるでしょう。
受験生の理解
受験生とのかかわり方について解説する前に、受験生という状態について少し勉強しておきましょう。
色々なストレスに悩まされている
受験生には悩みが沢山あります。
志望校、成績、学力、友人関係、家のこと、塾のこと、etc...
常に悩み事を抱えている状態です。思春期に受験というイベントが追加されるわけですから。
まずは、多感な時期で悩み事が多い、という事実を理解しましょう。
努力には動機が大事
外からいくら「勉強しろ」と言ったところで、成績向上につながる効果的な勉強はできません。
寧ろ、やれと言われると余計やる気がなくなる学生の方が多いです。
ただ発破をかけるだけ、宿題を出すだけでは勉強をやるようにはなりません。これは塾講師がやっても同じことです。
大切なのは、モチベーションを受験生自らが見つけ、高めること。ですが、これは簡単なことではありません。
成績が伸びることでモチベーションが向上する学生、先生に褒められてやる気が増す学生、難しい問題に燃える学生、様々います。
周りが受験生のためにしてやれる事は、受験生が頑張れる環境を作ること程度、だという認識を持つことが大切です。。
受験生にしてはいけない事
簡潔に言うと、
受験生にしてはいけない事=受験生のモチベーションを削ぐ事
です。
では、どのような行為が受験生のやる気に悪影響を及ぼすのでしょうか。
「勉強しろ」という注意
上でも述べましたが、やれと言われてやる気になる人は殆どいません。
「勉強しろ」という無責任な注意は禁物です。
スマホを弄ったり、漫画を読んだり、家で勉強しない受験生の姿を見てつい注意したくなる気持ちは分かります。
しかし、そこで注意したところで改善が期待できるわけではありません。
もし仮に机に向かったとしてもそれは一時的なものであり、ましてや有意義な勉強とは程遠い内容です。
大切な事は、今勉強させるための対処療法ではなく、勉強ができていない原因を特定し改善することです。
なぜ勉強できていないのか、それはスマホや漫画があるからではありません。
もっと根本的な原因があります。スマホや漫画をやりたくて勉強をおろそかにしているのではなく、勉強をやる気にならないからスマホや漫画に手が出ている理屈です。
スマホや漫画を制限するのも1つの方策ですが、それは暇つぶしの逃げ道をつぶすだけで、勉強をやる気にさせる根本的な方法ではありません。
繰り返しになりますが、勉強が出来ていない原因を考える事が重要です。
多くの場合は受験生本人の問題ですが、家族が出来るサポートもあります。
学校や塾の勉強で疲れている、或いはモチベーションが上がらず机に向かう気になれないのかもしれません。
受験生を観察して、労りと励ましの気持ちを込めた言動を心がけることが重要だと感じます。
過度な期待 or 無関心
期待はし過ぎても良くないですし、しなさ過ぎても悪影響です。
親の過度な期待は、受験生を消耗させる毒でしかありません。
そもそも親のための勉強ではなく、自分のための勉強です。
過度な期待は勉強の目的を見失わせてしまう恐れがあります。
応援する気持ちは大事ですが、こうなってしまうと本末転倒です。
一方で、子どもの人生だからといって無関心を決め込むと受験生は非常に辛いです。
期待しすぎないのも良くありません。期待しすぎないというのは、無謀に思える受験を諦めのスタンスで静観することも含みます。
博打色の強い受験は友達や先生に止められる、もしくは真剣に取り合ってもらえないことがありますが、そこで親さえも見放してしまうと、受験生の味方はいよいよいなくなってしまいます。
志望校合格は長く困難な道のり。
受験生が最後まで頑張り続けるためにも、近い人ほど最後まで応援してあげることが重要になると思います。
悲観しない
無関心よりも堪えるのが悲観的な話。
自分よりも親が先に諦めてしまうと、頑張る気持ちを維持できなくなってしまいます。
チャレンジ校の合格を期待しない振舞、受験直前期の全落ちの話などは避けた方が良いでしょう。
モチベーションに深刻な影響を及ぼします。
親は様々な状況に備える必要はありますが、それは直前期よりもずっと前に考えておくべき事です。
そういう考えが頭をよぎっても表には出さないことが重要です。
比較しない
親のネットワークで「〇〇さんの所の息子さんは△△志望」とか「推薦で□□に合格した」とか、そういう情報を耳にすることもあるでしょう。
そういう話を子どもにするのは控えた方が良いと考えます。
受験生にもそういう話は入ってきますし、自分の勉強に悩みがある人ほど人と比べられて良い思いはしません。
親側に比べる意図がなかったとしても、子どもの受け止め方は違うかもしれません。
子どもにとって誰かの話をされるメリットはないので、子どもから話を振られない限りは避けるべきです。
受験生にしてあげられる事
ここまで、受験生の理解と受験生にしてはいけない事を考えてきました。
ここからは、受験生に対してしてあげられる事を解説します
生活のサポート
まず、普段どおりの環境を整えて生活リズムを維持してあげることが大切です。
食生活の面では、健康管理に配慮した食事を出す、夜食のおにぎりを作ってあげる、さりげない気遣いや優しさが見えると、受験生も「頑張ろう」と一層やる気が出ます。
また、乾燥が気になる冬の季節には、加湿器を設置する、病気の予防にR1ヨーグルトを冷蔵庫に常備する、このようなサポートの仕方もあります。
その他、テレビのボリュームを下げる、受験生の目に入るところで遊ばない、など家族全員が出来る取り組みも大切なことです。
家族全員が協力して、受験生が勉強に集中できる環境を整えることが、何よりも重要で、親にしか出来ないとても重要な役目だと思います。
将来についての話し合い
これは第一志望を決める時期、理想は4月、遅くとも10月頃までにはしておきたいことですが、進路について親子で真剣に考える機会を設けることをおススメします。
受験が近づくほど、親子間のコミュニケーションをとる時間は少なくなるので、早い時期に土台の認識を揃える作業は必要不可欠だと感じます。
また、自分の経験を基にして子どものやりたい事を明確にしてあげるのも、親にしか出来ない役割だと感じます。
1回で素直な思いを言葉に出来ない受験生も多いので、その場合は何回も繰り返し話し合うべきです。
その話し合いは子供の目標を一緒に考えることが主旨です。
子供の意見を強く批判したり、親が意見を押し付ける形になってしまうとかえって逆効果なので、子供から意見を引き出すことに注力すると良いでしょう。
思春期の子どもと将来について真面目に話すことは簡単ではないですが、学校の先生や塾講師をうまく活用し、子どものやりたい事や受験校を把握しておきましょう。
これは、全落ちなどを回避する受験校選びや、次に述べる金銭面でのサポートにおいても重要となる要素です。
金銭面のサポート
金銭面でのサポートは欠かせません。
単語帳や参考書など勉強道具のサポートから、塾の授業や模擬試験など講習に対する資金援助も必要になります。
ただ、受験生の望むまま無制限にお金を出せば良いというわけではありません。
参考書や塾はあの手この手で必要性をアピールしてきます。
受験生はナーバスになっているので、本来は必要ない書籍や授業を、学校や塾に勧められるがままに求めてしまう、という事態に陥りがちです。
まるで本屋のような量の参考書を持っているのに学力に伸び悩む「参考書コレクター」、講習や授業を朝から晩まで受けているのに一向に成績が上がらない学生は、この典型と言えるでしょう。
「なぜ勉強するのか」、目的が分からぬまま勉強をしても学力は上がりません。
彼らは「なぜ参考書を買うのか」や「なぜ授業を受けるのか」が分かっておらず、ただ勧められるがままに努力しています。
そしてこの背後には、子どもの求めるがままにお金を出してしまう親がいます。
これは受験生にとって時間の浪費、家庭にとっては金銭の浪費となり、非常に不幸な結果を招きます。
本来、塾講師や先生はこのような悲劇を回避し受験生を効率的に目標まで導く立場にあるはずですが、悲しいことに利益を優先して受験生のことを考えない人もいます。
悪いのは子でも親でもなく、教える立場の人間である場合が多いです。
そういう時に、この悲劇の最後の砦になれるのが親だと私は考えます。
親子の間で共通の目標認識があれば、親が冷静に考えるきっかけを与えることが出来ます。
「子どもにに何故それが必要なのか」、難しい勉強の事は分からずとも、受験生に再度その必要性を考えさせるきっかけを作ることが、親の出来るサポートです。
その上で、それが受験生に本当に必要ならば、金銭のサポートをしてあげてください。
まとめ
私は『親は飯とカネだけ出せば良い』とまでは思いませんが、大学受験に於いて親が受験生にできることは非常に限られていると思います。
小学校受験における親の役割がコーチ、中高受験における親の役割が監督とするならば、大学受験における親の役割はオーナーです。
細かい指示は出さず、高い視座と広い視野で子どもという球団を支える存在です。
また、受験生のモチベーションは受験生自身にしか上げられない、と述べましたが、親が一生懸命頑張る姿を見せることは子どものやる気を大きく引き上げると思います。
平時は干渉しすぎず、大事な時には良い話し相手となり、適切な距離感で受験を乗り越えることが大切です。
このカロリーメイトのCMに、私の言いたいことが詰まっています。
受験生の頑張りや苦しみ、親の役割がリアルに描かれていると感じます。
大学受験を独り立ちの機会と考え、頑張る受験生を傍で温かく見守ることが、親と大学受験の適切なかかわり方だと思います。